東京都中央区明石町5-16 クロッシング明石町1F

小児循環器内科

こどもの心臓病と言われると、病院にずっと入院していなければいけないような重症な病気を想像される方が多いかと思います。
実際は一言に心臓病と言っても、先天性心疾患、川崎病、不整脈、心筋症など多岐にわたり、専門の病院で診る必要がある病気から、クリニックなどの外来で診ることのできる病気まで幅広く存在しています。
当院では日本小児循環器学会認定専門医が、心雑音の精密検査、川崎病のフォロー、先天性心疾患の経過観察から術後のフォローまで、連携機関と協力しながら診療を行っております。
また、胎児心エコー認証医でもあるため、妊婦健診で胎児の心臓病の指摘があった場合にもご対応いたします。
少しでもご不安が取り除けるように、丁寧でわかりやすい説明を心がけておりますので、お気軽にご相談ください。

1. 心臓のキホン

1-1 心臓はどこにあるの?大きさは?

通常心臓はみぞおちよりもうえ、胸の真ん中から少し左側にあります。
心臓の大きさは、赤ちゃんは大きめのイチゴ(あまおうくらい)、成人はにぎりこぶしくらいです。

1-2 心臓の部屋

心臓には左右それぞれに心房と心室が 1つずつあり、4つの部屋にわかれています。
左右の心室の出口と入口に、それぞれ弁という逆流防止弁がついています。

1-3 動脈と静脈

心臓と全身の臓器をつなぐ血管には、心臓から血液を送り出す血管を「動脈」全身の臓器から心臓に戻って来る「静脈」の2種類があります。

1-4 心雑音って何?

小児科医は、診察のときに聴診器で心臓の音を注意深く聴きます。その際に通常では聴こえないはずの音が聴こえることがあり、この音を心雑音といいます。
心雑音があっても心臓病があるとは限りません。正常の心構造でも心雑音が聴こえることもあり、これを機能性心雑音や無害性心雑音と言ったりします。
心雑音がある場合、何らかの構造異常がみつかることがあるため、念の為詳しい検査(超音波検査、心電図検査等)を行います。

2. 先天性心疾患のキホン

2-1 先天性心疾患ってどんな病気?

生まれつき(先天的に)心臓や血管の形が正常とは異なる病気を、先天性心疾患といいます。日本では100人に1人の割合(約1%)ですので、それほど稀ではありません。

2-2 先天性心疾患の主な症状

先天性心疾患の症状は、それぞれの病気によって、症状の重さや症状が出現する時期に違いがあります。
多くの病気に共通する主な症状として、チアノーゼと心不全の2つがあります。

チアノーゼって何?

チアノーゼは顔色や全身の色が悪く、唇や指先が紫色になることです。とても寒いときに顔色が悪くなったり、プールで唇が紫色になるのもチアノーゼの1つですが、先天性心疾患ではチアノーゼになる原因が違います。
正常心では血液の流れは必ず一方通行で、動脈血と静脈血が混じり合うことはありません。ところが、先天性心疾患のなかには動脈血と静脈血が混じることでチアノーゼが生じることがあります。

心不全って何?

心不全は心臓のポンプ機能が弱くなり、全身に十分な血液を送り出すことができなくなることです。

心不全になるとどうなるの?

ここでは赤ちゃんの心不全の症状について説明します。

  • ・活気がない、顔色が悪い。
  • ・手足が冷たい。
  • ・まぶたが浮腫んでいる。
  • ・ミルクを飲むのに時間がかかる、一回に飲む量が少ない。
  • ・飲んだあと呼吸が荒い。
  • ・体重が増えない。
  • ・寝ていても呼吸が早い。(1分間に60回程度)

3. 先天性心疾患の2つのグループ

先天性心疾患にはたくさんの病気がありますが、大きく2つにわけると、チアノーゼのない「非チアノーゼ性心疾患」と、チアノーゼのある「チアノーゼ性心疾患」に分けられます。

3-1 非チアノーゼ性心疾患にはどんな病気があるの?

代表的なものとして

などがあります。

3-2 チアノーゼ性心疾患

「非チアノーゼ性心疾患」に比べて、「チアノーゼ性心疾患」のほうが重い病気が多いです。
全体の数は少なく、病気の種類が多いため、同じ病気のこどもの数が少ない病気が多い。

代表的なものとして

  • ファロー四徴性
  • 完全大血管転位症
  • ・両大血管右室起始症
  • ・三尖弁閉鎖症
  • ・総肺静脈還流異常症
  • ・右室型単心室症
  • ・純型肺動脈閉鎖
  • ・修正大血管転位
  • ・エプスタイン奇形
  • ・総動脈幹遺残
  • ・左心低形成症候群

などがあります。

4. 川崎病

小児に特有な後天性心疾患の代表的なものとして、川崎病があります。

1 川崎病ってなに?

1967年に日本赤十字社中央病院(現・日本赤十字社医療センター)小児科の川崎富作博士が当初”急性熱性皮膚粘膜リンパ腺症候群”と報告した全身の中小の血管に炎症を起こす症候群です。その中でも心臓に酸素や栄養を供給する冠動脈に強い炎症を生じるのが特徴です。現在は世界共通で川崎病(Kawasaki disease)と呼ばれています。

2 めずらしい病気なの?

日本では1970年から川崎病全国調査が行われていますが、患者数/罹患率は年々増加しており、近年では年間1万5千人以上が新規に診断されています。4歳以下の乳幼児が80%を占めます。日本、韓国など東アジア地域において頻度が高く、欧米諸国と比較し10倍以上です。兄弟例、親子例の報告も多くされています。

3 なにが原因なの?

未だ特定されておらず、不明な点が多い病気です。東アジア地域に多いこと、また親子例や兄弟例も多いことから、川崎病になりやすい遺伝要因を持っている人に何らかの引き金(ウィルス感染?細菌感染?)が引かれるとこの病気を発症するのではないかと考えられています。

4 どんな症状?

主要症状は6つあり、①5日間以上続く発熱、②初期には手足が赤くなったり、腫れ(むくみ)が出て、回復期には指先から皮膚がむける(膜様落屑)、③色々な形の発疹がでる、④眼が充血する、⑤唇や喉が赤く腫れたり、いちご舌がみられる、⑥首のリンパ節が腫れる、といったものです。1歳前後の乳児ではBCG接種部位が赤く腫れあがることも多く、川崎病に比較的特徴的な症状で診断の参考になります。実際の症例写真については日本川崎病学会のHPに掲載されています。

5 どうやって診断するの?

厚生労働省川崎病研究班作成の「川崎病診断の手引き」に基づいて診断します。上にあげた「6つの主要症状のうち5つ以上を満たすもの」が定型例です。ただし、「6つの主要症状のうち4つの症状しかなくても経過中に心臓超音波検査(心エコー)などの画像検査で冠動脈に病変が確認された場合」も川崎病(不定型例)と診断します。さらに、主要症状が4つ以下の不全型が15-20%前後とされています。不全型であったとしても軽症というわけではなく、冠動脈病変の合併頻度が低くなるわけではありません。

6 どうやって治療するの?

基本的には入院が必要です。現在、急性期の標準治療は大量免疫グロブリン点滴とアスピリン内服併用療法です。免疫グロブリンとは献血で得られた血液から、ガンマグロブリンというたんぱく質を抽出・精製し造られます。冠動脈病変(炎症の結果、冠動脈の壁が脆くなり、拡張したり、瘤が形成されることがあります)は第10病日前後から認められ始めることが多いため、第7病日以前に開始されることが望ましいとされています。この標準治療で80%程度は治療開始48時間以内に解熱し、他の症状も改善していきます。残り20%程度は解熱しない(不応)、あるいはいったん解熱しても再発熱(再燃)します。これらの患者さんにどのような追加治療を行うかは議論の最中です。入院中は定期的に心エコー検査や心電図検査を行います。

7 合併症はあるの?

心臓については弁膜症(僧帽弁逆流や大動脈弁逆流)や心膜炎、心筋炎を合併することがあります。他にも、肝機能障害、胆嚢炎などを合併することがあります。

8 治療経過や予後は?

急性期に冠動脈病変を生じなかった場合、外来で2,3か月ほど低用量アスピリンを続けることが多いですが、日常生活や運動の制限は不要です。現在は昔に比べて冠動脈病変の頻度は減少傾向ですが、未だに後遺症として冠動脈瘤が1%前後あり、稀ですが心筋梗塞を起こすこともあります。冠動脈瘤が残っている場合にはアスピリンなどの抗血栓治療を続ける必要があり、後遺症の程度や抗血栓治療の有無に応じて、運動制限などの対応が必要です。